長年、あわら市で繊維業を営まれている会社様の敷地内に、商用の複合テナントを生み出すプロジェクト。
昔の繊維工場の持つ建築的形態、地域が育んできた河川と交通の歴史、シェアオフィスやシェアキッチン、カフェテナントが織りなす様々な人々の新たな挑戦を後押しする施設のあり方。
これは、地域と歴史と人々を未来へと導く、一隻の船のような場所。
ノコギリ屋根と水景が表現する、金津の歴史と文化
あわら市の金津地域は、人々の生活の起点として愛される竹田川が流れる場所だ。
古くは、三國湊までをつなぐ交通の要所として多くの小舟が行き交い、交易や交流を生み出してきた。
そのような歴史と文化を持つ金津だからこそ、その土地に生まれる新たな場所としてそれらを再解釈し、表現したい。
長年、あわら市に事務所と工場を構え、福井の伝統産業である繊維業を営んできたクライアントは、私たちのその意志に大きな共感を示してくれた。
また、現在は経年劣化の関係で建て替えられてしまったクライアントが営んできた繊維工場は、ノコギリ屋根が特徴であり、地域の方々にもその屋根が会社の象徴として認識されていた過去がある。
ノコギリ屋根は、クライアントのシンボルのような存在であり、その姿は多くに人々が集う竹田川の土手を思わせる表象でもある。
私たちは、ノコギリ屋根と水景を建物の象徴として捉え、それが地域の歴史・文化・生活とクライアントの過去・現在・未来を結びつけ、価値ある場として昇華することができると考えた。
シームレスかつ多義的なレイアウトによる語らいのグラデーション
この施設は、商用の複合テナントとして機能することを想定されている。
3つの空間で構成されており、それぞれクライアントの運営するシェアオフィス・シェアキッチン、そして民間利用を想定したカフェ・レストランテナントの用途別での設計を行った。
それら3つの異なる用途の空間が、河辺の桟橋を思わせるデッキで繋がれ、シームレスな行き来ができることで、施設内での分断を解消し、施設全体の調和と機能のグラデーションを強調するような効果を狙っている。
また、施設をぐるりと囲むようにデッキ部分が置かれ、また高低をつけることによって、利用者がデッキに座って談笑したり、水景を一人眺めながら心を落ち着かせたりと、友人同士の語らいや自分自身との語らいなど多様な語らいを受け止め、促す場所としての価値を追求している。
水を用いた積雪への柔らかで美的なアプローチ
水景にこだわるのは、なにも金津の歴史・文化の表現という面だけを狙ったものではない。
福井県の中でも北側に位置するあわら市は、毎年の積雪が多くの商用施設の悩みの種となっている。
しかし、雪かきなどの重労働は、社員の平均年齢も高いクライアントにとって現実的ではない。
そこで、私たちは建物の外側を流れる水盤の流水を、ソーラーパネルを主電力としたポンプによってノコギリ屋根まで引き上げ、常時屋根を水が流れ落ちるようにすることで、施設全体に雪が積もらず、降雪も水盤に落ちることで流水融解されるという仕組みを考えた。
また、屋根に水が流れることで、建物横に水のカーテンが生まれ、冬の融雪だけでなく、夏場など暑い時期の避暑効果、水音と水の落ちる姿が生み出す美的効果を生み出すことを目指した。
積雪地域の抱える課題に対して、機械的に解決策を示すのではなく、建物のコンセプトや意味と織り合わせながら、柔らかく美的なアプローチで効果を発揮することを可能にした。

